2023年12月24日 待降節第4主日 B年 (紫) |
あなたは身ごもって男の子を産む (福音朗読主題句 ルカ1・31より) お告げ ラテン語詩編書挿絵 スイス チューリッヒ中央図書館 13世紀半ば 表紙絵は、中世の詩編書の挿絵で、きょうの福音朗読箇所ルカ1章26-38節の天使ガブリエル(名は「神の人」という意味)によるマリアへのお告げ、いわゆる「受胎告知」の場面を描くものである。全体は縁取りの装飾が目立つもので、そのスペースの中を天使ガブリエルとマリアの姿が占めており、二者の姿も明確な描線をもち、とりわけ、衣のひだを描く線の強さも、この出来事の持つインパクトを強調している。 待降節の第2主日、第3主日は、洗礼者ヨハネの登場によって救い主キリストの到来が告げられ、また既におられることがあかしされるという意味で、イエスの第一の来臨のうちの宣教の生涯の始まりに迫っていったが、待降節第4主日は、いよいよ、イエスの誕生に関する叙述の始まりである。ルカ1章26-38節は、その内容の一つひとつが、我々に親しまれ、心に刻まれている。たとえば、ガブリエルがマリアに告げた最初のことば「おめでとう、恵まれた方、主があなたと共におられる」(28節)は、アヴェ・マリアの祈りの冒頭「アヴェ・マリア、恵みに満ちた方、主はあなたとともにおられます」の基である。そして、天使のお告げの内容に対して「どうして、そのようなことがありえましょうか」(34節)と問いかける天使のことばをついに受け入れて、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」(38節)と答える、そのことばは、神のみ旨への従順の模範として受け継がれ、キリスト者の生き方の指針であり続けている。 そして、生まれてくる男の子についてさまざまなあかしがある。まず「イエスと名づけなさい」(31節)と、「主は救い」を意味する「イエス」という名に、すでに神の救いを実現する方、すなわち救い主であることのあかしが含まれている。そしてまた神の子であることが「いと高き方の子」(32節)、「聖なる者、神の子」(35節)で直接に示される。そのままいわば“イエス・キリスト入門”にもなる、天使のお告げのことばである。 その中で、少し難しい内容に感じられるところがある。「神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない」(32-33節)という語りである。これについて大きなヒントを与えてくれるのが、きょうの第一朗読箇所サムエル記下7章1-16節からの抜粋(1-5、8b-12、14a、16節)である。預言者ナタンに告げられた主のことば、すなわちナタンが王ダビデについて告げるべき内容の啓示である。そこで、ダビデの王国について「あなたの家、あなたの王国は、あなたの行く手にとこしえに続き、あなたの王座はとこしえに堅く据えられる」(16節)と約言されている。この永遠の王国のイメージをもって、理想の王(メシア)が出現すると待望されるようになるのだが、キリスト教においては、それがまさしくイエスによって実現したと信じられている。それが上に引用したルカ1章32-33節のことばである。イエスが告げ知らせた神の国が、神の民イスラエルの歴史、そのダビデの王国の意味合いを引き継ぎ、完成させたものとして語られるのが、天使ガブリエルの告知である。 このように神の民イスラエルの歴史を通して展開されていった神の救いの計画全体を展望させてくれるのが、第二朗読箇所のローマ書16章25-27節である。使徒が告げ知らせている福音=イエス・キリストについての宣教について「この福音は、世々にわたって隠されていた、秘められた計画を啓示するものです」(25節)といって、天地創造から神の民イスラエルの歴史、イエスの誕生、その生涯、死と復活についてなど、すべてを包括する神の計画について賛美的に語るものである。「秘められた計画」とはミュステーリオンというギリシア語の訳語である。後にキリスト教では「神秘」と訳されるようになる。「秘跡」という概念や実践にも関係する重要な語であり、ミサの奉献文の真ん中あたりで、聖体を前に司祭が告げる「信仰の神秘」にも通じており、「受肉の神秘」、「降誕の神秘」、「主の過越の神秘」などという表現にも定着していく。 このように全体として、主の降誕の祝いを前に、神の救いの計画全体を思いめぐらすよう呼び招く、待降節第4主日の聖書朗読配分である。その味わいのうちに主の降誕のミサに喜びをもって向かっていこう。 |