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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年12月31日 聖家族 B年 (白)  
わたしはこの目であなたの救いを見た(ルカ2・30より)

主の奉献
エグベルト朗読福音書
ドイツ トリーア市立図書館 980年

 B年の聖家族の主日(祝日)の福音朗読箇所はルカ福音書2章22-40節。律法に従い、両親が幼子を神殿にささげる出来事が述べられるところである。この箇所は主の奉献(2月2日/各年共通)の祝日と同じである。
 登場人物としてクローズアップされるのはシメオン。「正しい人で信仰があつく」(ルカ2・25)と紹介される。そのシメオンが神殿の境内に入って来たとき、「両親は、幼子のために律法の規定どおりにいけにえを献げようとして、イエスを連れて来た」(27節)。絵の中ては、マリアがイエスをシメオンの手に渡そうとしているその瞬間がとどめられている。マリアの後ろ(画面左)にはヨセフがおり、両手に鳥を抱えている。「山鳩一つがいか、家鳩の雛二羽」(24節)を、そしてシメオンの後ろ(画面右)に描かれているのは、女預言者アンナ(36節参照)が「そのとき、近づいて来て神を賛美し」(38節)と記される様子が描かれている。幼子は、もう少年のようである。その前に向かう動き、シメオンが身をかがめて両手を布で覆いながら差し出している動きもきわめてダイナミックである。
 さて、この神殿奉献の出来事について、ルカ福音書は、律法に従っての行いというように何度も述べているが、その律法の一つは、レビ記12章1-8節に記されるもので、出産した女性が産後の清めが完了したときに幕屋に献げ物をするようにとあるが、その場合貧しい女の場合は、「二羽の山鳩または二羽の家鳩」(レビ2・8)を携えるものとされていた。ただ関係する律法はここだけではない。もう一つルカは「初めて生まれる男子は皆、主のために聖別される」(ルカ2・23)を引き合いに出している。これは、出エジプト記13章2節「すべての初子を聖別してわたしにささげよ」や11節、さらに民数記18章15-16節に関係している。
 このような律法の背景を示しながらも、この出来事の叙述は、独特な主イエスについてのあかしになっている。マリアへのイエスの誕生の予告の際に、天使ガブリエルが「生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる」(ルカ1・35)の「聖なる者」である、ということがこの出来事で実証される。主に献げられて、それによって聖別されるという律法に従う行為のうちに、この幼子がすでに初めから「聖なる者」であることが明らかになり、そのことをシメオンが「わたしはこの目であなたの救いを見た」(29節)とあかしするのである。シメオンについて、ルカは「聖霊が彼にとどまっていた」(2・25)こと、「主が遣わすメシアに会うまでは決してしなない」(26節)ことを聖霊から告げられていたこと、そして、「“霊”に導かれて神殿の境内に入って来た」(27節)と、聖霊の働きを重ねて強調している。律法に忠実に従う行為を両親が果たしたという以上に、救い主イエス・キリストについての啓示の出来事であることがわかる。
 イスラエルの民の伝統の中に深く属しているシメオンとアンナの礼拝は、イスラエルの民が待望した救い主であるとともに、異邦人を照らす啓示の光、すなわち万民の救い主であることもあかししている。加えて、その中でマリアに対して「あなた自身も剣で心を刺し貫かれます」(ルカ2・35)と告げるようにイエスの受ける苦難についての暗示もある。
 もう一度、絵に戻ろう。注目すべきは登場人物5人の目である。ヨセフ、マリア、シメオン、アンナ、いずれの目もはっきりと開かれていて黒い瞳がくっきりとしている。この幼子の神殿奉献のうちに、まさしく聖なる者、神の子、主が遣わされるメシアの到来をたしかに目撃していることを示している。幼子イエスの自覚に満ちたまなざしはすでに人々を祝福する主として威厳さえも感じさせる。すべての人物を包む背景は、地面の緑から曙のような濃淡変化を示している。救いの到来の暁に違いない。
 この日の第一朗読箇所(創世記15・1-6、21・1-3)も、第二朗読箇所(ヘブライ11・8、11-12、17-19)もアブラハムとサラ、イサクという家族を聖家族の旧約における予型として示しているが、神殿奉献の出来事に関しては、もう一つサムエル記上1章11節、21-28節が背景に考えられる。このサムエル記上1章、2章を読むとここに登場するハンナとマリア、サムエルとイエスに似たものが多くあると感じられる。2章1-10節のハンナの祈りは、実際マリアの賛歌(ルカ1・46-55)のベースになっている。これら旧約の家族の歴史を重ね合わせながら、ルカが語る幼子と聖家族の意味を黙想してみよう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』聖家族

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