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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年2月18日 四旬節第1主日 B年 (紫)  
この水で前もって表された洗礼は、今や……あなたがたをも救う (一ペトロ3・21より)

ノアの箱舟(上)とキリストが導く救いの舟(下)
ステンドグラス
パリ サンテティエンヌ・デュ・モン教会 16世紀

 
 表紙絵は、第一朗読で読まれるノアの洪水と契約の出来事(創世記6~9章)にちなみ、ノアの箱舟と、イエスによる救いの意味を対照させて描く出すステンドグラスの一場面である。ノアの箱舟は、上のほうに(しかも奥のほうに)描かれている。これがいわばイエス・キリストによる救いと新しい契約の前表(予型)として描かれている。もちろん、旧約でイメージされる舟はかなり大きなものであるのに対して、ここでは、ボート(小舟)のイメージである。右側に青い衣を着て、右手で杖を持っているのがノアである。
 この旧約の光景に対して、前景には、イエスが左側の舟の先頭にいて、舟の中には、たくさんの人々が描かれている。その衣装を見ると、教会の司教らしき人もいれば、16世紀のフランスにおける比較的身分の高そうな人々の姿も見える。いわば、その時代の社会を映し出す形で世界全体が、一つの舟のイメージで描かれているといってもよいだろう。その意味では、旧約のノア、イエス・キリストの時、そして、“現代”の教会ないしキリスト教社会がこの図をもって、重ね合わされているとも言える。“現代”の舟の中央の帆柱の上に、鳩の図が描かれているのは、キリストに導かれるこの世界は、聖霊によっても導かれていることを象徴的に描いているのだろう。
 きょうの朗読箇所の中で、ノアについては、第一朗読と第二朗読で二度言及される。
 第一朗読についてだが、まず一般論として、四旬節主日の第1朗読の配分のしくみを見ておく必要がある。
それは、旧約における救いの歴史のいわばダイジェスト的な想起となっているのでしる。B年の今年の展開は、第1主日にノアの契約、第2主日にアブラハムの試練、第3主日に十戒、第4主日にユダ王国の滅亡と回復、第5主日に新しい契約の預言が想起される。これは必ずしも年代順の振り返りではなく、旧約の歴史にあったイエス・キリストに向かっていく、それぞれの代表的局面(前表、予型)の想起といったほうがよい。目的はいかにしてキリストが神の計画の成就、時が満ちての、その実現であるかを知ることにある。
 きょうの第一朗読箇所である創世記9章8-15節の場合は、ノアに代表される人類とすべての生き物との間に結ばれた契約(いわゆるノアの契約)が結ばれるに至った決定的な経緯としての洪水に触れつつ、むしろ、肉なるものを(生き物)を決して滅ぼすことはしないという契約の内容と、雲の中の虹がそのしるしとなることが述べられている。救いの歴史は、神の人類との契約の歴史であることが明らかにされ、イエスによって結ばれる新しい契約の意味を考えるために大変大切な箇所である。
 第二朗読箇所である一ペトロ書3章18-22節の中で、ノアの時代の箱舟が想起されて語られている。変わった述べ方のようだが、「箱舟に乗り込んだ数人、すなわち8人だけが水の中を通って救われました」(20節)と語ることで、洪水と洗礼との関連づけをもって語られている。すなわち、洪水の水で「前もって表された洗礼は、今やイエス・キリストの復活によってあなたがたをも救う」(21節)ということである。ここに「前もって表された」と書かれていることが、まさしく旧約の出来事をキリストの出来事の前表(予型)と解釈する見方の典型的なものである。ここでは、ノアの洪水と箱舟が、キリストの死と復活、そして教会で行われる洗礼の秘跡にとって、その意味を暗示するものとして語られているのである。8人の救い(創世記7・13参照)、そして救いの箱舟という見方から、洗礼堂が八角形で造られたり、聖堂の中央の会衆席空間を指す部分をラテン語で舟を意味するナヴィス(英語ネイブ)と呼ばれたりする慣習が生まれている。神の救いの計画の味わい方の伝統と言えるだろう。
 現代では、人類の乗る地球という箱舟は揺れに揺れている。神の計画の深さとキリストの死と復活の出来事が持つ意味の豊かさに心を向け、キリストの導きと聖霊の促しを求めながら、この四旬節を祈りの時としてしてゆきたい。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』四旬節第1主日

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