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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年6月16日 年間第11主日 B年 (緑)  
わたしたちは……体を離れて、主のもとに住むことをむしろ望んでいます。(ニコリント5・8より)

全能者キリスト
モザイク(部分)
イタリア パレルモ マルトラーナ教会 12世紀半


 イタリア、シチリア州の州都パレルモにあるマルトラーナ教会の内陣円蓋のモザイクを真下から見た図である。シチリアは、古くはフェニキア人、ギリシア人の植民地・交易拠点地としてその時代の遺跡も多く、その後、ローマ帝国時代を経て、7世紀にはアラブ人(イスラム教徒)の支配、10世紀には北方のノルマン人の支配を受け、12世紀にはビザンティンの文化が流入し、多文化が交わる独特な文化地帯となっていく。この聖堂やモザイクもビザンティン様式で形成されている。
 全能者キリストを円蓋の中央に描き、その周りに四天使、さらに、その周りに6人の預言者、その四隅には四福音記者が描かれている。下から真上を見上げて撮っているので、預言者も福音記者もそれぞれだれであるか、各図像のところに文字も記されているが判別しにくい。それでも、旧約の預言者によって前もって約束され、福音記者によってその地上への降誕と生涯、そして受難・死・復活が証言されているイエス・キリストのことが今や天上におられ賛美のうちにおられることなど、このような図像構成の趣旨は十分に理解できよう。
 きょうの福音朗読箇所はマルコ4章26-34節で、成長する種やからし種のたとえで、イエスが神の国について教える場面であり、直接のこの図像とは関係がない。関連を見たのは、第二朗読箇所の二コリント5章6-10節である。天に永遠の住みかが備えられていることを知っているわたしたちが、「体を離れて、主のもとに住むことをむしろ望んでいます」(8節)という部分である。死んで復活し、天に上り、神の右の座についておられる主キリストを仰ぎ、そのもとに行くことを待ち望むパウロ自身、そして、信者が仰ぎ見るキリストの姿をこのモザイクの荘厳のキリスト像とともに考えたいと思う次第である。
 このモザイクのイメージのもとはもちろん聖書の箇所がある。その出発点にあるのは、イザヤ6章のイザヤの召命の場面である。「わたしは、高く天にある御座に主が座しておられるのを見た」(イザヤ6・1)とあり、そこで六つの翼をもつセラフィム(複数であるらしい)が主を賛美する。「聖なる、聖なる、聖なる万軍の主。主の栄光は、地をすべて覆う」(同6・3)と賛美する。いうまでもなく、ミサの「感謝の賛歌(サンクトゥス)」のもとになっている賛美のことばである。
 さらにエゼキエル1章も参考になる。ここもエゼキエルの召命に際して、彼が「神の顕現に接した」(エゼキエル1・1)の場面である。そこで、四つの生き物が現れる。「彼らは人間のようなものであった。それぞれが四つの顔を持ち、四つの翼を持っていた」(同1・5-6)。「その顔は人間の顔のようであり、四つとも右に獅子の顔、左に牛の顔、そして四つとも後ろには鷲の顔を持っていた」(1・10)とある。
 こうしたイザヤ、エゼキエルの幻視を踏まえられていると思われる新約聖書的なビジョンが黙示録4章に出てくる。今やキリストが座している天の玉座を囲む「四つの生き物」(目次録4・6)について述べる箇所である。「第一の生き物は獅子のようであり、第二の生き物は若い雄牛のようで、第三の生き物は人間のような顔を持ち、第四の生き物は空を飛ぶ鷲のようであった。この四つの生き物には、それぞれ六つの翼があり、その周りにも内側にも一面に目があった。彼らは、昼も夜も絶え間なく言い続けた。『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能者である神、主、かつておられ、今おられ、やがて来られる方』」(4・7-8)。イザヤとエゼキエルの幻視の内容が合体されているのがわかる。そして四つの生き物は、後に四福音記者の象徴となり、一般に獅子=マルコ、雄牛=ルカ、人間=マタイ、鷲=ヨハネとされている。このモザイクでも四隅に福音記者の図がありつつも、玉座の一番近くにいる四位の天使たちにもこれらのビジョンが背景にあると考えられる。
 いずれにしても、主キリストを囲む天使、預言者、福音記者の光景は、天上の礼拝そのもののイメージである。我々のミサもこの天上の教会の礼拝と結ばれ、その一致のうちに営まれている。ミサの祈りにも表現されている、約束された救いの完成を待ち望む、神の民の心のよりどころが、ここに示されていることを味わいたい。
※お詫びと訂正
『聖書と典礼』年間第11主日 B年(2024年6月16日)号8頁に以下の誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
 誤 「アナファラ(=奉献)」
 正 「アナフォラ(=奉献)」

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』年間第11主日

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