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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年7月14日 年間第15主日 B年 (緑)  
イエスは十二人を呼び寄せ、二人ずつ組にして遣わすことにされた (マルコ6・7)

キリストと十二使徒
聖遺物箱装飾
ドイツ リンブルク・アン・デア・ラーン大聖堂宝物庫 10世紀


 きょうの福音朗読箇所マルコ6章7-13節にちなんで十二使徒をキリストの上と下に配置させる聖遺物箱の装飾を表紙に掲げている。中央には玉座のキリストが描かれ、両脇には(向かって)右側にマリア、その背後に天使ミカエル、左側には洗礼者ヨハネ、その左後ろに大天使ガブリエルが描かれている。
 マリアと洗礼者ヨハネは、イエスを指し示す姿勢をしており、これは「デイシス」の型の構図をなしている。全人類の救いをキリストに願う執り成しの姿勢を示すものということになる。そして、上下、それぞれに二人一組が三区画で6人ずつ使徒たちが描かれている(それぞれに記されている文字略号=モノグラムが難解でだれととの特定は難しい)。
 イエスが初めて十二人の弟子を使徒として選び、派遣するという話は、マルコ福音書の場合は選びと派遣の具体的な叙述が分けて述べられる。選びについては3章13-19節で、「これと思う人々を呼び寄せられると、彼らはそばに集まって来た。そこで、十二人を任命し、使徒と名付けられた」(3・13-14)。この任命のあと、十二人の名前が出てくる。そして朗読箇所の6章7-13節では、二人ずつ一組にして実際に派遣し、それにあたって留意すべきことを教える。このような選びと具体的な派遣という内容と同じものはマタイ福音書では一続きで10章1-4節(選び)と10章5-15節(派遣)で述べられる。ルカの場合は、6章12-16節に選びの話、9章1-6節に派遣と、やはり分けて述べられている。
 これらの箇所のうち、きょうの場面である派遣の箇所で、イエスが弟子たちに対して行うことを表現することばが印象深い。マルコ(6・7)とマタイ(10・1)はともに「呼び寄せ(る)」と書かれており、ルカの場合は、「呼び集め(る)」(9・1)となっている。使徒とは、イエスに呼び寄せられ、呼び集められた者であり、そして、イエスに遣わされる者となる。遣わされて行う事柄について、マルコでは「悔い改めさせるために宣教した。そして、多くの悪霊を追い出し、油を塗って多くの病人たちをいやした」(6・12-13)と記され、ルカでは、「福音を告げ知らせ、病気をいやした」(9・6)と記される。マタイ10・6-7節では、イエスのことばの中で派遣の内容が述べられる。
 このような叙述の中に、使徒の在り方の本質が端的に示されているが、それは、広い意味では、キリスト者すべてに通じる使命である。だれもがその使徒職に参与しているからである。キリスト者は、何よりもイエスに呼び寄せられ、呼び集められた存在である。呼び集められた者たちを表すギリシア語「エックレーシアー」が教会の語源となる。「教会」という日本語からは見えないが、呼び寄せ、呼び集められているという十二使徒の原体験が含まれている。その使命の内容としては、一方では、宣教や福音の告げ知らせ、他方で、悪霊の追放や病人のいやしが述べられる。このことが、現代の使徒職としては、どのように具現できるかどうか、考えてみる必要がある。
 そこで、ミサの意味も見えてこよう。イエスのことを告げ知らせることは、まず呼び集められた者たちである教会の礼拝集会を通じて福音を告げ知らせ、キリストの奉献をあかしし、信仰宣言のことばを告げることなどを通して実行されている。悪霊の追放や病人のいやしについては、イエスや使徒たちの時代の病気の治癒の話とは状況が大きく異なっており、広い意味として、苦しんでいる人を助け支える行い全般と考えることができる。福音書が記す、十二使徒の派遣は、ガリラヤでの宣教を前提としているが、イエスの復活の後、それは普遍的なものとなる。マルコ福音書では(あとからの追加部分とも言われるが)、「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい」(マルコ16・15)という派遣命令があり、マタイでは、「すべての民をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えなさい」(28・19-20)、ルカの場合は、使徒言行録1章8節で「あなたがたは……地の果てに至るまで、わたしの証人となる」となる。イエスの死と復活を経て、使徒たちは、地の果てまでの、すべての人、すべての被造物に向けての福音宣教の使命を委ねられた者となる。それは、もちろん、現代の我々にまで及び、その使命は受け継がれている。玉座を囲む十二使徒の姿は、教会の自画像でもある。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』年間第15主日

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