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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年7月28日 年間第17主日 B年 (緑)  
イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えてから、座っている人々に分け与えられた(ヨハネ6・11より)

パンと魚の奇跡
コンスタンティノポリスで作られた福音書
パリ フランス国立図書館 11世紀

 年間主日B年の福音朗読には大きな特徴がある。基本的にマルコ福音書の記載に沿って朗読の配分がなされているが、年間第17主日から第21主日までの5週間は、ヨハネ福音書、しかもその6章が継続的に読まれていく。これは、マルコ福音書の全体としての短さを補う意味があるが、この配分によって、イエスが天から降ったいのちのパンであること、そしてイエスが与える肉と血、すなわち聖体が永遠のいのちをもたらすという聖体の神秘を主題とする一つの特色ある期間となっているのである。
 年間第17主日のきょうは、その初日にあたり、ヨハネ6章1-15節が福音朗読箇所となっている。五つのパンと二匹の魚でおよそ五千人を満たし、残ったパンくずが十二の籠いっぱいになるほどだったというエピソードである。これと同様の出来事が、マルコ福音書では6章35-44節で物語られている。ちょうど先週の福音朗読箇所マルコ6章30-34節に続く内容である。つまり、マルコの文脈で五つのパンと二匹の魚のエピソードが語られるところでこれをヨハネ福音書6章から読み、そのあとのイエスの教えに続いていくという構成になっている。ちなみに五つのパンと二匹の魚の出来事は、マタイ14章13-21節、ルカ9章10-17節でも語られている。すなわち、四つの福音書すべてで伝えられているという意味で重要である(これに関連する七つのパンと小さな魚少しで四千人を満たしたという話もマタイ15章32-39節とマルコ8章1-10節にある)。
 表紙絵の写本画も、まちがいなく、この五つのパンと二匹の魚のエピソードを描くものである。(画面向かって)左端にイエスがおり、三人の弟子たちに向かって一つの任務を授けるようなしぐさをしている。先頭の弟子(ペトロであろう)が両手を開いてそれを神妙に受けとっている。イエスとその弟子の間に、五つの丸いパンとその下に赤い二匹の魚が描かれている。これらも写実とか立体化の意識はなく、聖書の語ることばをそのまま具象化しているというものである。右側には群衆がいる。ヨハネ福音書でも6章10節にイエスが「人々を座らせない」と言っている(マタイ14:19; マルコ6:39; ルカ9:14-15参照)。ただ、この絵の場合、人々がなにか太い縄のようなもので囲まれているようにも見えるが、たんに、衣服の模様がつながっていくだけなのだろうか。あるいは真ん中に描かれている三人の弟子たちがすでにパンを授けている様子を描いたものなのだろうか、そのあたりは判別しがたい。
 背景の木にひとりの人(男性)が描かれているが、これもエピソードには出てこない要素である。ヨハネ6章14節に、この出来事を見た人々のことが言及されている。「そこで、人々は、イエスのなさったしるしを見て、『まさにこの人こそ、世に来られる預言者である』と言った」とある。出来事を見て、イエスについて何らかの発言をしていく人々の象徴として描かれているのであろうか。
 このように、わかりにくい部分も多いが、この構図全体の中で、イエス-弟子(使徒)たち-人々という関係が視覚化されている。弟子(使徒)たちというところには、教会、そしてキリスト者の立ち位置を見ることができる。そして、再び、ヨハネ福音書の構成に戻ってみると、このエピソードを述べたあと、イエスが湖の上を歩く(6・16-21)をはさんで、ヨハネ6章24節から、きょうのエピソードにすぐ続く内容が展開される。それが、来週年間第18主日の福音朗読箇所である。その末尾で、「わたしが命のパンである。わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決して渇くことがない」(6・35)という決定的なことばが告げられる。
 このように、ヨハネ福音書では、この五つのパンと二匹の魚でおよそ五千人が満たされ、なお余りあるほどであったということの意味がより深く説き明かされていく。そして、教会は、他の福音書でも伝えられる同様のエピソードに対しても、ヨハネ的な解明に沿って、その内容を受け止めてきているのだろう。感謝の祭儀(ミサ)そのものも、この理解をもって、天から降ったいのちのパンとしてキリストを告白し、キリストが与えてくれた「わたしの肉」と「わたしの血」を、感謝の祭儀を通して受けている。ヨハネ6章が伝えるイエスのことばとともに、感謝の祭儀(ミサ)で祝われる「信仰の神秘」に専心することとしよう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』年間第17主日

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