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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年10月13日 年間第28主日 B年 (緑)  
知恵の手の中には量り難い富がある(知恵7・11より)
 
ソロモン王 
シトー会の聖書写本挿絵
フランス ディジョン市立図書館 12世紀

 表紙絵では、ソロモン王を描く写本挿絵が掲げられている。きょうの第一朗読箇所の知恵の書7章7-11節は、ソロモンが語ったという設定で書かれていることにちなんでいる。知恵の書とは、フランシスコ会訳聖書(2011年版)の解説((旧)1679-1680ページ)によると、ギリシア語で書かれたもので、「パレスチナ以外で生まれ、ギリシア語を話し、七十人訳ギリシア語訳聖書を信奉していた一人のユダヤ人によって著された」と考えられ、エジプトのアレクサンドリアで、七十人訳との関係やその他の関連事象との比較から「前八八年から前三〇年までの間に書かれた」とされる。知恵の書は、年間主日のミサでも比較的多く読まれる(B年では、第13主日、第25主日に続いてきょうの第28主日の合計3回)が、それはこの知恵の書が「ユダヤ人に託された旧約聖書の教えと、使徒たちによって世界の果てまで伝えられるべき新約聖書の福音とをつなぐ輪の役割を演じている」(同解説)からでもあるだろう。
 「知恵」は、新約聖書において、神自身、神のことば、聖霊、ひいてはキリストを暗示する。キリスト者においては、知恵の書は、神のみ旨に従う生き方、キリストとともに生きることについての教えを豊かに含んでいるものとなり、福音書におけるイエスの教えの前提にあるものとして読まれるとき、その十分な意味が開示されるといってもよい。それゆえに知恵の書が第一朗読として読まれる意味は大きく、深い。
 知恵の書が知恵についてソロモンに語らせるという形をとったのは、列王記上1章~10章に登場するソロモン王が、なによりも知恵の人として特徴づけられているからである。ソロモンは、「何事でも願うがよい。あなたに与えよう」(列王上3・5)と主が夢枕に立って言ったことに対して「どうか、あなたの民を正しく裁き、善と悪を判断することができるように、この僕に聞き分ける心をお与えください」(同9節)と願った。このことを主が喜び、知恵を与えられた王である。「神はソロモンに非常に豊かな知恵と洞察力と海辺の砂浜のように広い心をお授けになった。ソロモンの知恵は東方のどの人の知恵よも、エジプトのいかなる知恵にもまさった。……あらゆる国の民が、ソロモンの知恵をうわさに聞いた全世界の王侯のもとから送られて来て、その知恵に耳を傾けた」(王上5・9-14)とまで評されている。絵画において、ソロモンは巻物がアトリビュート(その個性を示す持ち物)として描かれるのがしばしばである。この写本画では、その巻物が無限に長く開かれているところに、彼の知恵の豊かさが暗示されているのだろう。
 知恵の書が語る「知恵」が現世的な価値(王としての権威や富)を上回るものであることが、きょうの第一朗読箇所(知恵7・7-11)の主題である。この点が、福音書におけるイエスのメッセージの核心とつながる。「行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい」(マルコ10・21)という呼びかけ、そして「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか」(マルコ10・23)ということばに、その主題が端的に示されている。神の国の価値観と、地上の一般的な価値観との違いについての鋭い指摘と、その実践的な指針の明確さは、鮮やかである。ここで言われている神の国、そして天に富を積むことが、知恵の書に記されている「知恵」が意味するものの新約的な表現であることに気づかされる。
 その教えは、単にこうすれば、幸福になる、救われるというだけの処世術に尽きるものではない。地上の富よりもはるかに豊かな富が、神とともにそのみ旨に従って生きる者に対して約束されているという福音である。ここで、その教えを聞いた人は、イエスの前で、ひざまずいて「善い先生」とこびへつらうかのように質問を差し向けたこの人は、結局たくさんの財産を持っていた人で、イエスの「この言葉に気を落とし、悲しみながら立ち去った」(10・22)と記される。その顔の表情も浮かんでくるようだが、ひょっとしたら、あとでイエスの教えの意味に気づき、回心を遂げるようになるかもしれないし、どうなるかは、この話の限りでは答えが出てこない。結局のところ、イエスの呼びかけは、福音書を通してその人のことを伝え聞く我々にまで向かっている。そのことばの鋭さは、まさしく、第二朗読箇所ヘブライ書4章12-13節で言われている通りである。「神の言葉は生きており、力を発揮し、どんな両刃の剣よりも鋭く、……心の思いや考えを見分けることができ(ます)」。ここでの神の言葉とは、ソロモンの求めた聞き分ける知恵にも通じている。知恵の書が教える知恵の根本であろう。地上の富や価値が喧伝され続ける現代にとってイエスのメッセージは、いっそう鮮烈である。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』年間第28主日

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