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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年12月22日 待降節第4主日 C年 (紫)  
わたしの主のお母さまがわたしのところに来てくださるとは……(ルカ1・43より)

マリアとエリサベト
エグベルト朗読福音書
ドイツ トリーア市立図書館 980年頃
 
 表紙絵は、きょうの福音朗読箇所ルカ1章39-45節にちなむ。マリアがエリサベトを訪問するところ。マリアがエリサベトに挨拶し、それを「エリサベトが聞いたとき、その胎内の子がおどった」(ルカ1・41)、すなわち洗礼者ヨハネがおどって喜んだことを述べるところである。そこでエリサベトは「聖霊に満たされて、声高らかに言った」(41-42節)として、アヴェ・マリアの祈りにも入っている「あなたは女の中で祝福された方です。胎内のお子さまも祝福されています」(42節)と告げる。
 このようなマリアとエリサベトの邂逅(かいこう)の意味深さを、この画は二人がしっかりと抱き合い、接吻する姿で描いている。右脇に描かれているのは「ユダの町」(39節)にあたるが、それもマリアとエリサベトの抱擁を引き立てる景色にすぎない。二人の立つ地面が黄色、背景の薄紅色、そして空が薄い青緑色と、現実空間とは思えない、幻想的、というより霊的な光景となっているといえる。感じられるのは、緑色の外衣のエリサベトと紅色のマリアの衣の力強さ、その衣のひだや頭を覆う布などの立体感あふれる描写である。二人の密着度の強さをルカ福音書とともに鑑賞してみよう。
 そのためには、まずきょうの箇所に先立つ、洗礼者ヨハネの誕生の予告の場面(ルカ1・5-25)とイエスの誕生の予告の場面(同1・26-38)を味わう必要がある.ちなみに、後者すなわちイエス誕生の予告の場面は、B年の待降節第4主日の朗読箇所になっている。前者の洗礼者ヨハネの誕生の予告は、12月19日(週日)の福音朗読や6月24日の洗礼者ヨハネの誕生(祭日)の前晩の福音朗読(同1・5-17)になる。主日に聞かれることがないだけに注目しておきたい。
 祭司ザカリアに天使ガブリエルが現れて告げる。「恐れることはない。ザカリア、あなたの願いは聞き入れられた。あなたの妻エリサベトは男の子を産む。その子をヨハネと名付けなさい。その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなる。多くの人もその誕生を喜ぶ。彼は主の御前に偉大な人になり、ぶどう酒や強い酒を飲まず、既に母の胎にいるときから聖霊に満たされていて、 イスラエルの多くの子らをその神である主のもとに立ち帰らせる」(同1・13-16)。このお告げをにわかには信じられず、実現のしるしを求めたザカリアに対し、天使は「あなたは口が利けなくなり、この事の起こる日まで話すことができなくなる。時が来れば実現するわたしの言葉を信じなかったからである」(同1・20)と言う。その後、天使の予告どおり、エリザベトは身ごもる。彼女は「主は今こそ、こうして、わたしに目を留め、人々の間からわたしの恥を取り去ってくださいました」(同1・25)と言い、これはマリアの歌のモチーフ(1・48)に連なる。
 こうした経緯と似た形式の出来事が、その6か月後、マリアに起こる。マリアへのお告げの内容は、ヨハネに対するものと比べても全く新しい決定的なものとなる。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」(28節)。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない」(30-33節)。
 洗礼者ヨハネは、民を神のもとに立ち帰らせるため、つまり回心のために遣わされる存在であるが、イエスは神の子である、神の民の新しい、永遠の王である。もちろんこの予告の意味は福音書を通してさらに明らかにされていく。そして、マリアへのお告げにおいて、イエスの誕生の予告の真実性の証明根拠がエリサベトの懐妊そのものとされている。その意味で、天使のお告げを真実と信じるマリアがエリサベトを訪ねるという、きょう朗読される出来事の意味はとてつもなく大きい。
 マリアとエリサベトの出会いというよりも、エリサベトの胎内の子がおどったように、御子を身ごもり産むというマリアの使命のうちに既に神の計画の実現が察知され、それが喜びとして表現されているからである。
 洗礼者ヨハネは、もちろん、民に回心の洗礼を行う人として洗礼者と呼ばれ、東方教会ではイエスに先立つ預言者という意味で前駆者との称号で呼ばれるが、それだけでなく、イエス誕生の予告の真実を証明する存在、イエス自身の現れとその福音を前もって示した存在として、その輪郭は限りなくイエスの存在と重なる。洗礼者ヨハネの誕生が、キリスト教においても祭日(6月24日)として祝われる、特異な事象もそこに根拠があるといえる。洗礼者ヨハネの誕生の福音(ルカ1・57-66)が12月23日(週日)の福音朗読箇所であり、もちろん洗礼者聖ヨハネの誕生(祭日)の福音であるだけでなく、そこにおけるザカリアの預言が「教会の祈り」(聖務日課)の朝の祈りにおいて、福音の歌として毎日祈られることも、洗礼者ヨハネとその誕生のもつ偉大な意味を教会があかしし続けていることを心に留めたい。アヴェ・マリアの祈りを祈るとき、我々もエリサベトの心をともにし、マリアと御子イエスをいつも心に迎えて抱擁しているのである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』待降節第4主日 C年

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