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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年1月1日 神の母聖マリア (白)  
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

聖母子
施釉テラコッタ浮彫 アンドレア・デッラ・ロッビア作
イタリア チッタ・ディ・カステッロ市立絵画館 15世紀末

 表紙絵には、大変珍しい施釉テラコッタの浮彫りが掲げられている。作者のアンドレア・デッラ・ロッビア(1435~1525)はフィレンツェに生まれ、同地で没した彫刻家。同じくフィレンツェで活躍した彫刻家ルカ・デッラ・ロッビアの甥にあたる。施釉テラコッタ浮彫とは、この叔父のルカが考案したもので、アンドレアも彼の工房で活躍した。この聖母子像のように、青い背景の上の白い浮彫が印象的で、きわめて優美な雰囲気を醸し出している。聖母子の姿もあたかも15-16世紀当時の貴婦人とその子どもの様相である。
 周りに六位の子どもの姿の天使像がある。プットー(Putto)と呼ばれるもの(イタリア語トスカナ方言で「小さな子ども」を意味する)で、当時、天使像の一つのパターンで、とりわけフィレンツェ美術に多く登場するという。ここでは、ルカ福音書2章13節に登場する天の大軍(天使の群れ)をイメージするのでよいだろう。聖母子の上には聖霊のしるしとして鳩が描かれている。マリアの表情はうつむきかげんで、やや憂〈うれ〉いが感じられる。きょうの福音朗読箇所ルカ2章16-21節の真ん中あたりに記される「マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた」(13節)という様子を、(そこでは必ずしも憂〈うれ〉いではなかったかもしれないが)、この浮彫作品のマリアに重ね合わせて、このときのマリアの思いを追想することもよいだろう。
 さて、1月1日は、ローマ教会で伝統的にマリアを記念する祝祭日であるが、その出発点は1月1日が12月25日の主の降誕から8日目であるというところにある。「8日目」というのが、キリスト教の典礼暦では実に重要である。元来、ユダヤ教の週と安息日の周期を背景として形成されたキリスト教の週と主日の周期だが、その中で、主日から主日までの8日間という考え方が重要になっている。キリストは初めであり、終わりであるという考え方に基づき、一週間、すなわち地上のすべての生活がキリストのうちにあるようにとの意味合いが含まれていく。主の降誕の出来事の一つの完了が語られるのが、降誕から8日目のこの日である。
 福音朗読箇所ルカ2章16-21節では、降誕の夜の出来事の続き、羊飼いたちが救い主の誕生を告げ知らせ、神を賛美していく様子があたかも降誕の感動の余韻のように語られる。そして、誕生から8日たって割礼を受け、「イエス」と名付けられたことが語られる。「神は救う」という意味をもつ「イエス」という名(ルカ1・31参照)が実際に付けられることで、神の御子である救い主の地上での歩みが本格的に始まることを示される。
 ちなみに、「幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である」(ルカ2・21)と語られる中で、マリアの名には一つも言及されていない。この受動表現の中で「名付けなさい」と言われ、名付けたはずのマリアの動きは隠されている。また、この受動表現は、神の計画の通り実現したというニュアンスをも持っている。マリアは自らの役割をしっかりと果たしつつも、ここで表に出てくるわけではない。神の計画通り、そして、マリア自身が「お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカ1・38)と答えた通り、神の意志に従って「イエス」と名付けたのであり、このように、神の計画の地上における実現において、マリアの存在が秘められていることが重要である。イエスの存在に絶えず同伴しているマリアの姿を教会はしっかりと見つめ、その姿を深く追想し、篤(あつ)く崇敬し続けている。
 このマリアの同伴が救いの歴史の中で意味する一つの側面は、神の人類に対する「祝福」である。受胎告知の場面での天使ガブリエルの最初のことばは「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)であった。十字架のイエスがマリアと使徒ヨハネに向けて、それぞれ「母」と「子」と呼び、ここに教会を、ひいては新しい人類家族の誕生を示す。そして、聖母子像は「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と呼ぶでしょう」(同2・48)ということばの通りのマリアを示している。
 このように、マリアの姿に神の人類への祝福とより高い使命への招きがこめられていることを、きょうの第一朗読箇所=民数記6章22-27節は示している。イスラエルの民への祝福のことば、神の祝福と照らし、恵みと平安を約束するそのことばは、イエスとマリアを通して、今やすべての人に向けられ、一人ひとりを神の民となるよう招いている。救いの歴史の実りとして告げられる祝福のメッセージとともに、教会は、全世界にこの喜びを運ぶ使命を新たに受ける。また、第二朗読箇所ガラテヤ書4章4-7節が告げる「時が満ちると、神は、その御子を女から、しかも律法の下に生まれた者としてお遣わしになりました。それは、……わたしたちを神の子となさるためでした」(4節より)の「時が満ちる」の表現がこの円形の枠の中の聖母子像にも感じ取れる。このような救いの歴史の実りに、新約の神の民である教会は、いつも感謝の祭儀(ミサ)を通じてあずかっている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』神の母聖マリア

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