本文へスキップ
 
WWW を検索 本サイト内 の検索

聖書と典礼

表紙絵解説表紙絵解説一覧へ

『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年1月12日 主の洗礼 C年 (白)  
イエスが洗礼を受けて祈っておられると、天が開けた(福音朗読主題句 ルカ3・21より)

イエスの洗礼 
パンタレイモノス修道院の朗読福音書挿絵
ギリシア アトス 11世紀末

 表紙絵は、主の洗礼を描く朗読福音書挿絵である。この描き方には、イコンでも5~6 世紀から定型化されてきた要素が多い。中央には川であるが、ちょうどイエスの全身(首から下)がすべて水の中に描かれる形で川の水の量が強調されている。水がイエスにおける神の栄光を表す光背のようにも感じられる。洗礼者ヨハネの姿は、尊厳ある者として内衣と外衣によって権威が表現され、光輪によって神の使命を受けた者としての姿が強調されている。その手がイエスの頭に置かれている点は水の注ぎでもあると同時に、天からの聖霊の注ぎをも表現しているように思われる。イエスの頭上の真上に、天付きで二種類の青色の濃淡で描かれる弧の部分が描かれているが、これは天におられる神の栄光の表現であり、そこから真っ直ぐに降りてくる線は聖霊のしるしである。
 きょうの福音朗読箇所ルカ3章15-16、21-22節の中の21-22節「イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降ってきた」に相当する。表現としては、むしろ、マルコ1章9節を想起させる。イエスが洗礼を受けて、「水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。すると、『あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者』という声が、天から聞こえた」と、天からの降下をはっきりと述べるからである。
 ところで、この絵の中の鳩はオリーブの葉をくちばしにくわえている。この描き方は、創世記6-8章のノアの洪水の出来事を想起させる。その8章10-11節では、水が引いたかどうかを確かめるために放たれた鳩がくちばしにオリーブの葉をくわえた鳩が帰って来て、それで水が引いたことがわかったというくだりがある。洪水という人類の試練の終わりと再生を示すものである。
 このような解釈を含ませてイエスの洗礼を描いていることの意味合いは、川の水の中、イエスの足もとに描かれる人間の形の茶色い存在である。悪魔を造形するものと言ってよいが、要するにこれは、水の有する魔性を表すものであろう。古今東西の宗教においてさまざまに神威が感じられているように、水は、生命と人類の生存にとって不可欠なものとしてのポジティブな面と同時に、溺れ・津波・高波・洪水など破滅と死をももたらしかねない、恐ろしい存在としてのネガティブな面を有する。ありがたいものであるとともに恐ろしいものであるという両極性があるために、水は崇敬と同時に畏怖の対象でもある。そのような水の魔性が、ここでイエスの洗礼という出来事、洗礼を受けたイエスによって制圧されている、ということがここで意味されている。ノアの洪水が示す破滅と死から、再創造と再生への転換がイエスの洗礼によって決定的なものになっていることの図像表現として味わうことができる。
 イエスをはさんで対岸に描かれるのは、翼からわかるように二位の天使である。福音書が描くイエスの洗礼の場面には言及されないが、洗礼者ヨハネの洗礼授与の行為を手伝い、洗礼を受けたイエスに衣を差し出すなどの役割で位置づけられている。ここで行われている神の計画の実現をしっかりとした眼差しで見つめ、そのことを自らの奉仕によってあかししている、ともいえる。
 さて、「主の洗礼」は降誕節の締めくくりとなる祝日である。降誕節を形づくる二つの祭日、主の降誕と主の公現の意味合いがこの日の聖書朗読に回帰していることにも注目したい。このC年の配分で見ると、第1朗読箇所(イザヤ40・1-5,9-11)は、バビロン捕囚時代の預言と考えられている部分で、そこで捕囚からの解放と帰還が告げられるところで、「主の栄光がこうして現れるのを肉なる者は共に見る」(同40・5 )というキーフレーズで表現している。第2朗読箇所(テトス2・11-14、3・4-7)は主の降誕・夜半のミサでも読まれた箇所で、その冒頭は「すべての人々に救いをもたらす神の恵みが現れました」(11節)である。これは、「主の降誕」で記念される出来事、「主の公現」で記念されることと意味の上では全く重なっている。イエスの洗礼は、それを再び確証させるものであり、その中で天から聞こえてくる「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」(ルカ3・22)ということば、御父である神からの認証のことばとして、神の国の宣教へと展開していくイエスの生涯の大きな節目となっている。我々にとっては、もちろん、自身の洗礼、キリスト者としての生き方、その使命の根源をなす主の洗礼の出来事を、救いの歴史に対する壮大な解釈を含む絵とともに味わうこととしよう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』主の洗礼 C年

このページを印刷する

バナースペース

オリエンス宗教研究所

〒156-0043
東京都世田谷区松原2-28-5

Tel 03-3322-7601
Fax 03-3325-5322
MAIL