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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年4月6日 四旬節第5主日 C年 (紫)  
罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい (ヨハネ8・7より)

姦淫の女
アゴスティーノ・カラッチ画
ミラノ ブレーラ絵画館 1594年頃

  きょうの福音朗読箇所ヨハネ8章1-11節のいわゆる「姦通の女」と呼ばれるエピソードにちなむ絵である。作者アゴスティーノ・カラッチは、1557年生まれ、1602年没のイタリアの画家、版画家。従兄弟のルドヴィコ(1555-1619)、弟アンニバーレ(1560-1609)とともにボローニャ派と呼ばれる一つの流れを創り出した画家である。カトリック教会の歴史としては、トリエント公会議(1545-1563)後のバロック時代の画家にあたる。表紙絵にも見られるように、多くの人々のいる場面での人間像、その個性に迫る描写であり、現代の我々から見ても映画のシーンを見るようであろう。
 向かって左の人物群の中心にイエスがいる右手を挙げて、(向かって)右にいる女に向かっている。これは、神的権威を及ぼすしぐさでも、祝福のしぐさでもある。女のすぐ先で、右手で彼女を指しながら、顔をイエスに向けている人物は、律法学者かファリサイ派の人々の一人(3節参照)ということになる。
 イエスのしぐさは、この女に対して、「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない」(11節)と語ることばとその内容、そこにおけるイエスが有することばや振る舞いにおいて感じられる神的権威が具象化されているといえるだろう。この場面の中に、鑑賞する我々自身も入り込んで、イエスのことばの力とイエスが実際にそこにいることの重みを感じることが大切である。
 さて、この姦通の女のエピソードについては、学者たちの指摘することを知っておくべきであろう。つまり、この箇所、厳密には7章53節から8章11節までの部分は、ヨハネ福音書にはもともとなく後から挿入されたものである、ということである(『聖書と典礼』の脚注でも〔〕の中で、「ヨハネ福音書に後から挿入されたと考えられるこの箇所は、『わたしはだれをも裁かない』(8・15)というイエスの言葉につながっていく」と述べている。新共同訳聖書では、その意味でヨハネ福音書の本文にこの箇所は、区別して〔 〕で括って掲載している。ヨハネ福音書的ではない、しるしの代表的なものとして指摘されているのは「律法学者たちやファリサイ派の人々」(3節)という語句である。律法学者たちという語は、本来のヨハネ福音書にはないという。
 その一方で、この箇所に挿入されたエピソードは、7章10節から始まる仮庵祭での論争における中心的な主題「イエスはだれであるか」に関連するものでもあり、たしかに後の8章15節「あなたたちは肉に従って裁くが、わたしはだれをも裁かない」に関連している。なによりも重要なのは、このエピソードの伝承が生前のイエスに遡る古いものであると考えられていることである。後から挿入されたとはいえ、その後、現代まで受け継がれているのも、この話が聖書そのものの教えを大切にしつつ、今も我々に伝えているからであろう。
 それは、人の罪は、神のみが赦すことができる(マルコ2・7参照)こと(人は神の前でだれしも罪人であること、だれも女を罪に定めることはできない、裁くことはできない)、そしてイエスは、この神の権威の代行者であるということ(マルコ2・10の「人の子」)、ヨハネ福音書におけるイエス自身が語るとおり、神(御父)と一致している方であるということである(たとえばヨハネ14・10「わたしがあなたがたに言う言葉は、自分から話しているのではない。わたしの内におられる父が、その業〈わざ〉を行っておられるのである」)。このような究極の主題を念頭に置いて、あらためてこのエピソードを表紙絵解説と対応させながら読むとき、もっとも味わいあるのは、「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」(7節)と言われて、「これを聞いた者は、年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい……」(9節)というところである。
 表紙絵では、人々はまだ全員立ち去ってはいないのだが、女を指さす男だけがイエスに向かって訴えるような表情と姿勢なのに対して、他の人物たちは、見ているところがまちまちである。むしろ、イエスの前に顔を隠している。こうした人々の反応のうちに、イエスの教えの生き生きとしたさまが具象化されている。この場面に、ひととき心を留めて黙想しよう。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』四旬節第5主日 C年

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