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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年4月27日 復活節第2主日(神のいつくしみの主日) C年 (白)  
信じない者ではなく、信じる者になりなさい (ヨハネ20・27より)

復活したイエスとトマス
サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の門柱浮彫
スペイン ブルゴス 11世紀後半

 中世の修道院における門柱の浮彫という大変珍しい造形芸術で表現された復活したイエスとトマスとの出会いの場面を描くものである。下段の左にひときわ背が高く描かれている、復活したイエスが、右手を挙げて、脇腹をトマスに示し、そこにトマスは右手の指を近づけている。
 きょうの福音朗読箇所ヨハネ20章19-31節のうちの24節から29節にあたる内容にちなむものである。イエスの後ろ(下段)に三人の弟子、その上には、中段に四人、上段に四人の弟子たちが描かれ、全部で12人いる。24節の冒頭「十二人の一人でディディモと呼ばれるトマスは」とあることに沿っているような描き方であろう。イスカリオテのユダがヨハネ福音書でも裏切った弟子として登場するので、この箇所では、何人であったかの問題はあるが、そうした事情よりも復活したイエスと十二使徒との関係という教会論的な主題が入っていることと思われる。その意味を味わえるのが、この浮彫の使徒たちの実にリズミカルな姿勢の描き方である。皆、イエスのほうに体を傾け、顔を向けている。この構図の面白さのうちに復活したイエスが現れたことへの喜び、神への賛美の調べをぜひここで味わいたい。
 さて、きょうの福音朗読箇所は、二つのエピソードから成っている。まず、イエスが復活したその日、すなわち週の初めの日の夕方に、復活したイエスが弟子たちの真ん中に来て立ったこと(ヨハネ20・19-23)、続いて、イエスとトマスとのかかわりのエピソードである(20・24-31)。後者は、一般に「トマスの疑い」という画題でよく描かれるものだが、福音書の叙述と美術的表現との対応の仕方が多様であるということも興味深い。
 トマスは、「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」(ヨハネ20・25)と言う。それに対して、イエスは、「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい」(20・27)と言う。これに対して、実際にトマスがそうしたかどうかについては実は福音書では言及されていない。
 表紙絵の浮彫では、トマスが右の手指を伸ばしてイエスの脇腹の傷に触れようとしていることが描かれている。トマスは傷のほうをじっと見つめている。イエスの右手がすっと伸ばされており、しかもかなり長く誇張されている。「わたしの手を見なさい。……わたしのわき腹に入れなさい」というイエスの
 開放的な態度がよく示される。続く「信じない者ではなく、信じる者になりなさい」(20・27)ということばから、ここでのイエスのことばがトマスに対する信仰への招きにほかならないことがはっきりとわかる。そのあと、トマスは見事にそれに応じて「わたしの主、わたしの神よ」と信仰告白をするのである。それを受けてのイエスのことば「わたしを見たから信じたのか。見ないのに、信じる人は、幸いである」(ヨハネ20・29)ということばは実に印象深い。トマスは、ここでは「見たから信じた者」なのだろうか。あるいは、「わたしのわき腹に入れなさい」と言われて、そう言われた瞬間に信仰告白をした、つまり見ないで信仰告白をした者なのだろうか。流れから想像すると、前者のように思われるが、あとの場合ではないか、とも考えることも味わい深い。いずれにしても、この復活したイエスとトマスとのやりとりから、万人への信仰の招きが溢(あふ)れ出てきたことになる。「見ないのに信じる人は、幸いである」(29節)――これは、使徒たち以後の世代すべて、現在の我々、将来の人すべてのついてもあてはまる普遍的な信仰への招きとなっていく。まさしく福音である。
 ちなみにヨハネは、この出来事を主日(「週の初めの日」ヨハネ20・19; 「八日の後」(20・26)のこととして語り、我々の主日体験として語る。日曜日のミサで、イエスがいつも我々に「見ないのに、信じる人は、幸いである」と、その弟子、主に導かれる神の民となるよう招いてくれているということを受けとめていきたい。
 福音朗読箇所の前半のヨハネ20章19-23節の内容と関連させると、さらにこの日のメッセージの重要さが感じられてくる。イエスは弟子たちに「平和があるように」と告げ、派遣する(21節)。そして、聖霊を与える、それは、罪をゆるす力にほかならない(23節)。主日を毎週の復活祭として集う神の民、教会の使命がここに示されており、ミサの意味が深く照らされる。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』復活節第二主日

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