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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年6月29日 聖ペトロ 聖パウロ使徒 (赤)  
今や、義の栄冠を受けるばかりです(第二朗読主題句 二テモテ4・8より)

殉教に向かうペトロ(右)とパウロ(左) 
石棺彫刻 
ローマ サン・セバスチアノ教会 4世紀半ば

 今年は、6月29日が主日にあたり、聖ペトロ 聖パウロ使徒の祭日が祝われる。この祭日について学ぶ機会になるので、キリスト教美術初期の石棺彫刻の作品を表紙絵によって鑑賞し、聖書朗読の内容と併せて考えていこう。
 使徒の頭(かしら)であるペトロと、異邦人への使徒と呼ばれるパウロは、紀元64年のローマ大火をきっかけとするネロ帝によるキリスト教徒への迫害の中で殉教した。ローマでは早くから二人の殉教が一緒に記念されており、その最初の記録は258年のものである。3世紀にはイタリア全土、北アフリカにも伝わり、5-6世紀には東西教会で広く祝われるようになる。ローマでの祝日は当初から6月29日で、バチカンの丘のペトロの墓の上に建てられた教会堂(現在のサン・ピエトロ大聖堂)でペトロを、オスティア街道沿いの教会堂(現在のサン・パウロ・フオリ・レ・ムーラ大聖堂)でパウロを、そしてアッピア街道沿いで両者を合同で記念していた(『新カトリック大事典』参照)。
 教父アウグスティヌスは、その説教の中で、次のように呼びかけている。「二人の殉教の記念日は同じ一つの日です。彼ら二人は一体です。別々の日に殉教しても、彼らは一体です。ペトロが先に殉教し、パウロが続きました。使徒たちの血によってわたしたちのために聖別された祝日を祝います。彼らが信じたこと、彼らの生き方、苦労、苦難、告白、教えなどを大切にしましょう」(『毎日の読書 「教会の祈り」読書 第二朗読』第5巻 年間2 209ページ)。
 このように、二人の使徒を一緒に記念する慣例の中で、この石棺彫刻も製作されているのだろう。同じローマ帝国の文化にあった作品であるので、彼らの姿は現実に近いものであるにちがいない。
 このような祭日のために選ばれている現在の聖書朗読を見ると、福音朗読箇所は、マタイ16章13-19節、イエスが弟子のシモンにペロトという名を与え、「天の国の鍵を授ける」(19節)というところである。ペトロが使徒の頭としての使命を授与された場面であり、その後のペトロの使徒職、ひいては教皇職の理解にとって重要な箇所になっている(A年の年間第21主日の福音朗読箇所にも含まれる)。第一朗読箇所も、使徒ペトロに関する使徒言行録12章1-11節である。ペトロに及んだユダヤ人による迫害の模様と、主の天使によって救出されたエピソードである。彼の殉教に向かうきざしの中で、神に守られていたその使徒職の様子が物語られる。
 第二朗読箇所は、使徒パウロのテモテへの第二の手紙(4・6-8、17-18)である。パウロはまず殉教の覚悟を告げる。「世を去る時が近づきました。わたしは、戦いを立派に戦い抜き、決められた道を走りとおし、信仰を守り抜きました。今や、義の栄冠を受けるばかりです」(6-8節)。その中で、すべての人への使徒職について端的に語る。「わたしを通して福音があまねく宣べ伝えられ、すべての民族がそれを聞くようになるために、主はわたしのそばにいて、力づけてくださいました」(17節)。
 このようにして、二人の殉教を記念することをきっかけとする「聖ペトロ 聖パウロ使徒」の祭日は、この二人に与えられた使命をあらためて知り、そのことを通じて神の計画の偉大さと深さを確認し、賛美と感謝を神にささげる日となる。新約聖書において、ペトロは福音書と使徒言行録とペトロの手紙によって、パウロは使徒言行録と彼の手紙によって、主とともに生きる生き方のための大切な教えと呼びかけが含まれている。我々の信仰を育ててくれる最も重要な使徒たちであることは言うまでもない。
 石棺彫刻の中の二人の使徒は、質素な服装で何も持たない姿である。信仰のほかには何も持たない姿を我々としても心に留めていくことが大切だろう。二人の殉教の後、ローマはこの二人の殉教の地であることが、その後、ペトロの後継者であるローマ教皇職の源として、しかも、異邦人への宣教を受け継いで、ヨーロッパ全体への宣教活動の推進拠点となっていく。ひいては、近世近代においては、全世界への宣教活動の源となっていき、全世界に広がった教会を統括する存在としてローマ教皇の使命がますます大きくなっていく。そのようにして形成されてきたローマ・カトリック教会は、いみじくも今年、ペトロの後継者として、また万人への福音宣教の指導者として前教皇フランシスコを継ぐ、新しいローマ教皇レオ14世をいただいている。
 この年、主日に祝われる「聖ペトロ 聖パウロ使徒」の祭日のミサを通して、我々は、イエスの派遣した使徒たちの殉教とその使命を振り返り、自分たちの心の中の出来事として体験することが大切である。現代世界における教皇の存在の意義を思い、その働きを支え合い、そして互いにつながり合っている全教会と、我々自身の使命にも深く心を向けていきたい。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』聖ペトロ 聖パウロ使徒

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